FUJINOYAMA BIENNALE 2016
Date:2016.10.28(Fri) - 2016.11.27(Sun)
Old Igarashi House
富士の山ビエンナーレ2016
ディレクター小澤慶介氏 テキスト
直接目にすることができない宇宙や深海を知ろうとする思いを、自らの行為に転化させて創作活動を行う須藤。
目の前に展示してある《30 Doradus》は、NASAのハッブル宇宙望遠鏡が捉えたイメージを元に作られた。紙にピンで穴をあけて光を通すことで、地球から16万光年離れたところにある大マゼラン星雲のなかの旗魚座を浮かび上がらせている。
床の間に目を移すと、富士山頂にて1998年から7年間、地上にふり注ぐサブミリ波を観測し続けた《富士山頂サブミリ波望遠鏡》が鉛筆で描かれてある。その鉛筆の粉が何層にも重ねられてゆくうちに、夜空に浮かぶ望遠鏡が姿を表す。
診察室のテーブルに展示してある《PC(駿河湾の深さと天の川銀河)》は、駿河湾の海底から富士山頂を経て宇宙へと、想像力の高度を上げながら見ることを要求する。駿河湾と地上の高低差が、ピンで開けられた穴によってPCを模した画面に図像として結ばれている。
直接見ることができないから、見ようとする力が働く。遠く隔たっていればそれだけ彼女の思いも強くなり、己の体に知を刻みこむかのような描きまた穴をあける行為は、終わりなく続いてゆくことだろう。
するがのくにの芸術祭 富士の山ビエンナーレ2016
出品作品について 須藤 美沙
私は宇宙に興味があり、NASAのハッブル等の宇宙望遠鏡が撮影した色鮮やかな写真を見るのが好きです。こんなカラフルで美しい世界が本当にあるのだと信じていましたが、実はそうではないことを数年前にはっきりと認識しました。この宇宙の写真の中には目に見える光だけでなく、目に見えないもの、赤外線や紫外線等の光が研究者の手によって着色され、あたかも事実のように映し出されています。私はこの過程に着目したことから『目に見えている世界だけが唯一の真実ではない』ということについて考えながら作品を制作しています。
1 「富士山頂サブミリ波望遠鏡」
2016 鉛筆、パネル
富士山頂サブミリ波望遠鏡と星空を定点観測した写真をもとに、木製パネルにジェッソを塗り、鉛筆で描いた。
この富士山頂サブミリ波望遠鏡とは、サブミリ波帯域での宇宙電波を観測する電波望遠鏡のことである。宇宙からのサブミリ波を観測するには、標高が高く、乾燥した場所である必要で、富士山頂はそれらの条件を満たしていた。東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センターや国立天文台等によって開発・設置・運用が行われていた。1998年から7年間観測を続けていたが、現在は閉鎖し存在していない。しかし、その成果がアルマ望遠鏡等の最先端望遠鏡の技術に活かされている。
2 「30 Doradus」
2014 紙
NASAのハッブル宇宙望遠鏡が撮影した写真をもとに、紙にプッシュピンで穴をあけて描いた作品。ハッブルが撮影したばかりの映像は傷だらけで、宇宙望遠鏡研究所の研究者の手によって美しく加工された画像がインターネット上で公開されている。タイトルの「30 Doradus」とは旗魚座のことで、私たちの住んでいる天の川銀河の近くにある(といってもかなり遠い)16万光年離れた大マゼラン星雲の中にある。*光年=光が1年間に進む距離をあらわす単位。紙に穴をあけてその裏から光を通すと、表には無数の星や星雲が輝き画像が見える。作品の表側だけでなく裏側の見えない面について意識させる。穴をあけることで、見えるものだけでなく見えないものについても考えることのできる作品にしたいと思っている。
3 「PC (駿河湾の深さと天の川銀河)」
2016 紙(スタードリーム-FS)
作品の形は作者愛用の銀色のノートパソコン(MacBook Air)をもとにしている。パソコンを使ってインターネットでリサーチをしていると、最初の目的から離れて、いつの間にか遠く離れた場所に行き着いてしまうことがある。ネットの世界は、過去も現在も、未来も繋がっていて、まるでどこまでも広がる宇宙空間のようだ。今回は静岡について調べる中で、日本一深い湾・駿河湾と天の川銀河を主題にしたPC型の作品を制作した。
駿河湾は、伊豆半島最南端の石廊崎と御前崎を結ぶ線に囲まれた海域が駿河湾で、その最深部が2,500メートルに達し、日本の湾の中では一番深い湾である。富士山は標高3,776メートルの、日本一宇宙に近い山である。その高低差に興味を抱いたことがきっかけでこの作品がうまれた。モチーフとなった駿河湾の海洋図は、海上保安庁海洋情報部がネット上に公開している海洋台帳を参考にしている。駿河湾から富士山→天の川銀河(私たちの住む銀河)→宇宙空間への繋がりを想像しながら、紙に穴をあけて描いた。